原題は「GOLDEN ARCHES EAST」もともとの論文集は1997年発行。
日本での訳出は2003年。
その第5章「日本のマクドナルド」(大貫・ティアニー・恵美子)のP225にこんな文章が。
第二のタブー、「汝立食いすべからずは」マクドナルドから直撃をうけた。
「立食い」という行為は、何世紀もの間、日本文化の中では否定的な合意があった。
そうした見方は、人間と動物の大きな違いの一つは、動物は立ってものを食べるという考えからきている。
(中略)
「立食い」という言葉は、有名な作家である泉鏡花(一八七三―一九三九年)の小説『玄武朱雀』のなかに初めて出てきたものである。
(中略)
正しい日本の食事作法では、床に正座し、低い食卓で食事することになっている。
(中略)
このような行為の変化をもたらす状況をつくりだしたのは、椅子の使用である。つまり、椅子を外国から取り入れたことが、膝を曲げて坐る日本古来の作法を侵食してしまったのである。
いやいや。おかしいだろ。
日本における立ち食いの文化は、もっと以前から存在していたと思うんですが。
戦国時代とかは流石に分かりませんが、江戸時代の屋台は立ち食いが多かったというのは確かな話でしょう。
確かに、立って食うのは軽食・スナック的なもので、正式な食事の作法としては存在していなかったとはいえ、否定的な合意ってのはなんかおかしい。
泉鏡花の「玄武朱雀」に出てくる立食いにしたって、寿司の立食いの話で、江戸時代の風俗として出てきてるわけで、そこが初出であるはずがない。
(参考:泉鏡花の作品をPDFで公開してるサイト>http://web-box.jp/schutz/ こちらの「玄武朱雀」42P)
あと、「椅子が外国からもたらされた」って何時の話なんだろう。明治期の事を言ってるのか?
とすると、時代的には立ち食いの方が先にあったことになるし。
ただ、「伝統的日本の作法と呼ばれるものは、通常室町時代(1392-1603年)初期に生まれた「小笠原流」のことを指している 」と註にあるので、多分この人、何か間違ったのを吹き込まれたんじゃあないかなあ。
こういうのは翻訳時にチェックしても、もとの文章に手を加えたり訂正ってわけにもいかないだろうけど、そのままってのは流石にどうなんだろう。
本について
全体の章立ては
- 序章:脱国籍性、現地化、東アジアのファーストフード産業
- 第一章:北京のマクドナルド-アメリカ的なものの現地化-
- 第二章:香港のマクドナルド-消費主義、食べ物の変化、子供文化の起源-
- 第三章:台北のマクドナルド-ハンバーガーとビンロウの実と国民のアイデンティティ-
- 第四章:ソウルのマクドナルド-食べ物の選択とアイデンティティとナショナリズム-
- 第五章:日本のマクドナルド-変わる行儀作法-
- 終章:近代を呑み込むこと
となってます。
「清潔さ」「環境」「居場所」などの異質さが受け入れられる過程は、後知恵では当たり前の様に思えますが、それを実践していく苦労と労力には目を見張るものがあります。
1990年代前半までのデータと取材が元なので現在と少し違う点もありますが、主に進出と拡大を扱っているので歴史資料としても興味深い。
しかし、他の国に関する記述も上記と同じくらい勘違いが含まれてるとするとちょっと怪しいかも・・・。
といった所で今回はここまで。