ニンジャがオマエをハラゲイで殺す!
ということで、30年ほど前にアメリカで書かれたニンジャ小説をご紹介。
この「ザ・ニンジャ」1980年に発売されると、NYタイムズのベストセラーリストに22週間にも渡って載り続けたという大ヒット作。
日本では、1982年に講談社から邦訳が出版されています。
キン肉マンの超人とは関係ありません。
目次の章立てからして、なるほど忍者。
「五輪の書」から「空」を抜いて無理矢理忍者。
しかし、内容はかなりの勘違いジャポネスクというかなんというか。
「ニンジャスレイヤー」の原作および翻訳にも影響してるんじゃあないの、という部分もあったりします。
主人公は、日本育ちのアメリカの忍者、ニコラス・リニーア。うん、もう意味がわからんよね。
WWIIの戦後処理のために日本に父とともに渡った際、庭師アタキ*1から「ブジュツ」の概念を教わり、ブジュツと忍術の達人にして武士道を受け継ぐカンサツ師匠に付き従って忍術を極めた男なのです。
アメリカの西海岸で起きた連続殺人、それには「忍者」が絡んでいる!
てなのから始まり、過去編とかを交えつつライバル忍者(日本人)と戦っていくんだけど、なんかもう色々ね。
狙った敵はかならず殺し、姿も見せずに逃げてしまうのが忍者なのです。
同書P62
てな説明に始まり、なんかの体術や剣術になると武蔵の発明した技だ、って事になってたりする。
名称もなんか不可思議。十字手裏剣?の事を「シャケン」と書いてたり。
忍者の七つ道具の一つ、刃の短い手裏剣の一種でしてね。星の形をした金属片をシャケンというんです。
こいつが忍者の手で空中に投げられるとき、必殺の恐そるべき武器になります。
同書P62
忍術は、ブジュツに含まれているものとそうでないもがあるのですが、ブジュツドウジョウの師範は<ハラゲイ>の達人であり、<ハラゲイ>とは何かてな話では
集中と統合を意味するハラと、エネルギーの拡張されたかたちを意味するキと、この二つの言葉に由来するハラゲイの概念は直感もしくは第六感を越えたもので、テリーの先生が言ったように「現実を認識する真の方法である。」
同書P106
全然意味の異なる概念になってたり。
この概念を正しい日本語でなんて言えばいいのか・・・。
明鏡止水のなんとかみたいなのか、念能力の「円」っぽいのをさらに拡張したようなの。
他にも、日本の忍術には、善なるものと悪なるもの。黒い術と赤い術が存在し、ニコラスは「黒い術」側を師匠に与えられているのですが、それの対であり悪である「赤い術」を説明した部分を引いてみると
赤い術の中で、ずばぬけて危険な、ずばぬけて邪悪なのは<九字切り>だと彼は行った。
この手によるジェスチュアはこの世界に今も残る魔術の最後の名残りであると多くの人の間で言われている。
まるく線で囲んだ中に9個の菱形が黒々と描かれているのである。それぞれの菱形はさらに「虚無僧」という漢字をその中に囲んでいた。
同書、P409〜411
「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」や#っぽく切る説明は資料になかったんだろうか。
日本人として出て来る名前は、こういうのの常として、やっぱりおかしい。
- アタキ
- イタミ
- カンサツ
- サイゴウ
- サツガイ
- タンカ
- ツウコウ
- ハンシチロウ
- ヒデヨシ
- フカシギ
- ムロマチ
などなど、一体どこから引っ張ってきた名前なんだろう。
日本国内の旅行シーンもあって、これも何を参考資料にして書いたんだか。
大阪の人間は非常に勘定高い商売人だと一般にいわれている。
雑踏する街角で知人と出会ったときなども、「モーカリ マッカ」と、あまりにも知られたこの文句で挨拶をかわすのが大阪人のやり方だというくらいだ。
同書P374
あんま間違ってはいないか。
スパイ小説に無理矢理に忍者とか武士道とかジャパネスクを放り込んだらこうなったんだなあ、としか言いようがないのですよ。
こんなん読んでたら、そりゃ勘違いも拡大するよねえ。
ちょっと厚めで、ハードカバー2段組550ページ。文庫化されてないんで、重いというのが最大の弱点。
機会があったら読んでみてもいいかもしれません。
作者について
作者のエリック・ヴァン・ラストベーダーは、最近では、故・ロバート・ラドラムの「ジェイソン・ボーン」シリーズ(日本でのタイトルは「暗殺者」。映画「ボーン・アイデンティティ」などの原作)を衣鉢を継いで執筆していたりもする実力派作家。
過去作としてはヒロイックファンタジー小説「黄昏の戦士」シリーズでも、『サムライ』が『ブシドー』をなんとかかんとかみたいな勘違いジャポネスクをやってます。
勘違いジャポネスクについて
「勘違いジャポネスク」ってのは私が勝手にそう呼んでるだけなので正式な言い方は他にあると思います。なんていうかは知らない。
こういう「勘違いジャポネスク」はジャンルとして存在してるって面もありまして、「SHOGUN」など一連の実写ドラマ・映画からのブームがアメリカでは大きかったんじゃあないかなと。
つーか、書かれてるのは日本ではなく「ジパング」かもしれませんね。
B.J.ベイリーの「禅銃 ゼンガン」や、「ニンジャタートルズ」みたいな例もあるし、楽しきゃいいんだよ、ってな部分は大きいでしょう。
逆に、日本人が書いた海外が舞台の作品でも、こういう勘違い満載にしか読めないの一杯あるだろうし。
また、逆にそれらのパロディとして書かれた、W.C.フラナガン*2「素晴らしき日本野球」「ちはやふる奥の細道」なんてのも。
とはいえ、トレヴェニアン「シブミ」、ウィンズロウ「サトリ」みたく、タイトルだけだと勘違いっぽいけど中身はしっかりしたのもありますね。
あんまりめくじら立てずに楽しむのが一番かなあ。
といった所で今回はここまで。