情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明

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漫画、あるいは小説、もしくはエッセイなどの
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2022年のコミック市場は、全体微増で史上最高額を更新。電子伸長・紙下落、単行本増加、雑誌数減。電子の売り上げが紙の2倍近くにまでなった。



 2022年、コミック市場全体は前年よりも11億円の微増で、史上最高額をさらに更新。
 紙の雑誌が3.8%減、紙のコミックスが16%減、電子が8.9%増。


 そして、出版全体の4割をコミックが担ってるという規模になりました。
 各出版社のサイト・アプリでの無料配信や連載もあるし、実質規模はさらに多いのかも。

 ということで、出版月報2023年2月号、特集「コミック市場2022」に掲載されたデータなどより。




2022年の簡単なまとめ

  • コミック市場全体の販売額は微増ではあるが、史上最高額を更新
    • 流石に電子2桁成長は終わり
  • 電子の販売金額が4,479億。紙が2,2991億なので、約2倍
    • 電子のレーベルも増加が続いてる
    • ストアごとの差がつきつつある
  • 紙コミックスは前年より16%減
    • 2020、2021が特異だったとも言えるが、2019よりは多い
    • 紙で漫画を読む習慣が付いた層の電子シフトもある?
  • 単行本新刊点数は14,187点で、最高をさらに更新
    • 月1200点近く。「書籍扱い」が増加してる
    • 一冊当たりの紙での販売数は減り、電子で売れてる
  • 紙の漫画雑誌の売り上げは、続減だが下げ率は小幅に。前年比3.8%減
    • 銘柄数はさらに減って185誌。(最大時は328誌)



2022年販売金額(億)販売部数(万冊)
雑誌(紙)53713,937
単行本(紙)1,75429,496
電子(雑誌+単行本)4,479-




 以下、データは出版月報2023年02月号や、過去分からの引用になります。


 販売金額は。
 紙は雑誌・単行本計で13.4%の減。単行本が16%減、雑誌が3.8%減。
 電子は8.9%の増。
 全体で0.2%の増。


 


 紙の雑誌は全体で537億円。最大時の16%弱。


 


 紙の雑誌の銘柄数が減ってるが、単行本点数は増加。これは、WEB/アプリ初出作品が増え続けているため。





近年の傾向と電子コミック


 紙での販売部数・販売金額は、雑誌微減、単行本減。


 


 単行本は、コロナ巣ごもりで売れまくった2020・2021年が特異点だったと考えられる。
 そういうので漫画読むようになった人が置く場所無くなって電子に切り替えたりとかもありそう。


 紙の雑誌は、27年連続のマイナス。しかし、ここ最近2桁減だったのが、1桁前半減に留まっている。
 それでも940万部減ってるんだけど。(1号あたり40万部の隔週誌が無くなったようなもの。)





販売部数雑誌計(万冊)前年比単行本計(万冊)前年比
201629,90085.6▼37,02192.0▼
201726,59888.96▼31,60885.38▼
201823,51188.39▼28,92391.51▼
201919,93684.79▼29,960103.59△
202017,22986.4▼38,151127.3△
202114,87886.4▼37,08597.2▼
202213,93793.7▼29,46979.5▼


 紙の単行本は、雑誌扱いは減だが、書籍扱いは増。
 新興出版社が書籍扱いコミックスを増やしている影響。




 


販売金額紙雑誌計(億)前年比紙単行本計(億)前年比
20161,01687.1▼1,94792.6▼
201791790.26▼1,66685.57▼
201882489.86▼1,58895.32▼
201972287.62▼1,665104.85△
202062786.8▼2,079124.9△
202155889.0▼2,087100.4△
202253796.2▼1,75484.0▼




 全体としてはかつての最大である1997年から、863億円も増えてるのです。


 


 単行本の販売部数は、7600万部減って、販売金額は333億円減。
 減った部数の割に販売金額が、と思ったら書籍扱いコミックが増えてたり、定価が上がったりの影響ですね。


 電子コミック市場は伸びが減速、なんだけど365億円上がってる。
 コロナでの爆発的普及があったので、浸透・成熟期に入ったという事か。
 海外展開を広げる出版社・ストアも多くなってるので、この数字よりもさらに全体売り上げは伸びてそう。



電子コミック(単行本+雑誌)販売金額(億)前年比
20161,491127.54△
20171,747117.17△
20182,002114.59△
20192,593129.5△
20203,420131.9△
20214,114120.3△
20224,479108.9△



コミック文庫とコンビニコミック


 市場への影響が小さくなり過ぎたのか、特集内に書かれなくなりました。
 完全に無くなったわけでは無いけど、コンビニの雑誌・書籍コーナーも縮小しつつあるし、しゃあないのかな。



雑誌銘柄数と、単行本の点数




 紙の雑誌は、185誌。減り続けています
 逆に漫画配信サイト、アプリ、電子雑誌、などは増え続けてるんだけど、一体幾つあるのか、何が掲載されてるのか、全体像を把握するのが不可能なレベルになってるんだよなあ。
 一つの出版社で複数のサイト持ってて、さらに同じ作品を掲載してる場合もあったり、どうなってんだ講談社


 




 単行本の年間新刊点数は、昨年から767点増の14,187点。昨年よりも月あたり63点増。
 月1200点近くになってて、リアル書店で全部置ける所無いんじゃないかって数。

 


 これほど増えたのは、

  1. WEB・アプリ連載がどんどん単行本化されている
  2. 新規参入出版社が増えている
  3. 書籍扱いコミックスが増加してる

 という事。


 しかし、紙での売り上げは減ってるのだから、1点当たりの刷り部数は減少してる。
 実際、漫画家さんがSNSで「紙のを手に入れたい場合は予約必須」「基本増刷はされない」などと発言しているのも見かけます。かなりの長期連載作でもそう。
 紙の単行本は、コレクターアイテム化していく傾向が強まってると言えそう。


 書籍全体が、紙・インク・輸送などなどの影響で値上がり傾向にあり、コミックスも値上がりしている。
 平均価格で言えば、2012年が504円で、2022年は595円。10年で20%弱の値上げ。
 リアル書店では特典を付けたりフェアを組んだりと、様々な工夫をしている所も多いが、今後どうなるか。




雑誌銘柄数前年比単行本新刊点数前年比
201623197.5▼12591100.2△
201722597.4▼1246198.97▼
201820591.1▼129771104.1△
201919997.07▼1280598.67▼
202019296.5▼12,939101.0△
202119199.5▼13,420103.7△
202218596.9▼14,187105.7△


 漫画アプリなどで読んでいる場合、その作品がどこの出版社、どのレーベル、どころか作者が誰かすらわからないまま読んでるというのも多いらしい。
 Twitterなどでバズった漫画が一気に売れるという現象もあり、宣伝のために一話~数分UPされたものが毎日のようにtogetterにまとめられたりもしている。


 ネット発からアニメ化、グッズ化、コラボカフェなど広がる例も出てきてる(「ちいかわ」など)
 なろう小説→書籍化・コミカライズ・アニメ化、なんてのも多い。


種類201420152016201720182019202020212022
少年向け272828282828282929
少女向け353333322928282828
青年535047464442403939
レディスコミック534747454244454442
4コマ202020191514131310
パチンコ・パチスロ1098755443
BL161616161513131313
趣味・スポーツ・その他775544333
成年312727272321181818
合計252237231225205199192191185


 雑誌全体は部数も銘柄数も減。休刊雑誌は6点と増えた。
 単発で売れる号があった雑誌としては、「最強ジャンプ」「コロコロコミック」がカード付録で、「ベツコミ」がジャニーズで、「ヤングアニマル」がベルセルク再開で、「週刊少年マガジン」が『東京リベンジャーズ』完結で、など。
 「まんがタイムきららMAX」は『ぼっち・ざ・ろっく!』の付録が付いた号が完売だった。
 グラビアやってる雑誌だと、えなこがとにかく多かった(参考:コミック誌カバーガールグランプリ2022(CCGG2022)決定!ソロ部門は「えなこ」の圧倒的二連覇、グループ部門は日向坂46が三連覇!)



 雑誌も値上がり傾向にあり、週刊少年誌ではサンデーが号によっては380円になっている。
 印刷や輸送にかかる費用が値上がりしてるからなのに電子版も一緒に値上げするのかってあたりは説明しづらいか?(トータルの製作費と売れる部数の話なのでおかしくはない)



電子の動き


 昨年から約365億円の伸び。
 2桁成長は終わったものの、こんな伸び方してるの、他にあるんだろうか。


 


 紙で売れてる作品、映像化作品などが強いのは変わらず。
 縦スクロールへの参入も増えているが、全体に占める割合はまだまだ。


 広告をたくさん打っても、それを十分回収できるだけのユーザーが定着。
 とはいえ、ストアによってはユーザー獲得に苦戦したり、差が付きつつある。


 課金を増やす施策としては、割引セール、クーポン配布、ポイント還元など。
 「待てば無料」も定着・拡大しつつある。また、複数ストアやアプリを使って、可能な限り無料分で回す様なユーザー動向もありそう。(最新を追う、という例として:大量の漫画アプリを読みこなす一日の流れがすごすぎる - Togetter)
 それでも売り上げは伸びているので、課金してでも読んでくれるユーザーが居るという事。


 英語版・フランス語版など、アプリの海外配信も増えている。
 (これ、気になってるのは日本と同時配信するって事は翻訳作業分の時間が掛かるから、漫画家さんは締め切り厳しくなってるのでは、というあたり。単に早くなってるだけで1回の執筆に使える時間は変わらないのかもだが、現実の事件とシンクロして問題に、とかなった時とか)


 電子で売れてる作品は、「ONE PIECE」「SPY×FAMILY」などの紙でも売れてる作品は当然強く、青年向けでは「ザ・ファブル」「キングダム」「アオアシ」など。
 縦スクロールはRush!レーベルがコミックシーモアを中心に売れまくってる。が、全体としての割合ではごく少数。他社では「氷の城壁」がヒット。



 異世界ものは完全に定着。「転生したらスライムだった件」「無職転生」「異世界おじさん」「転生賢者の異世界ライフ」などが好調。(異世界・賢者・転生の組み合わせは数がありすぎてどれの事かわかりにくい)
   


 女性向けでは、令嬢、溺愛ジャンルがヒット。他にも広告からヒットするのもあり「鬼の花嫁」「聖女の魔力は万能です」「捨てられた皇妃」「ワタシってサバサバしてるから」など。って、サバサバってビッグコミックレーベルなの!?え、どういうこと?
  


 それはそれとして「悪役令嬢転生おじさん」はいいぞ。
 


 BL、TLも電子での売り上げが伸びてる作品があるが、過激な内容だと広告出しづらいのが厳しいところだそうな。
 この辺。Amazonにあるならそこまでではない、のかな。どうなんだろう。

     



人気作品




 筆頭のヒット作は「呪術廻戦」、「SPY×FAMILY」、「東京卍リベンジャーズ」、「チェンソーマン」。東卍は完結。集英社強い。
    



 男性向けはWCの影響もあり「ブルーロック」が伸び、映像化された「魔入りました!入間くん」「終末のワルキューレ」「その着せ替え人形は恋をする」などが売れてる。
    


 女性向けでは「ミステリと言う勿れ」「ハニーレモンソーダ」「モエカレはオレンジ色」「薬屋のひとりごと」「うるわしの宵の月」「わたしの幸せな結婚」など。
      



 電子連載作でここまでに出てないのだと「十字架のろくにん」「転生貴族、鑑定スキルで成り上がる」「プロミス・シンデレラ」「明日、私は誰かのカノジョ」「しょせん他人事ですから」「片田舎のおっさん、剣聖になる」「大蛇に嫁いだ娘」「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」「マザーパラサイト」「自転車屋さんの高橋くん」「転生したら剣でした」「ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される」「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」「WIND BREAKER」など。
               


 筆者が勧めておきたいのは「解体屋ゲン」「吸血鬼すぐ死ぬ」「ランドリオール」「本気!終章 火薬」「劇光仮面」「鬼ゴロシ」など。
     


 映像化がらみなどで2023年に売れてるのはなんだろうな。「デッドマウント・デスプレイ」「【推しの子】」「カワイスギクライシス」「もういっぽん」「ダンス・ダンス・ダンスール」など原作が抜群に面白いのは、知ってもらえるチャンスが来たから行くのは間違いなかろうってのはあるが。
     





おわりに



 流石に電子の加速も一段落。
 可処分時間・金額の奪い合いというのを考えると、限界がどこかにあるのは間違いないので、それがこの辺という事かも。


 紙コミックスの減速は、大ヒット作品の終了もあるが、2020~2021年に多く売れただけに収納スペース問題が発生したんじゃあないかとも推測。
 そうなると電子に行く、というのもありそう。
 電子はこの1年で365億円伸びてるのだから、1日当たり1億円、1冊500円のコミックスに換算すると1日当たり20万冊の伸び。計算合ってるよなこれ。多すぎない?


 連載を追うのもアプリやWEBでってのが増えてそうだし、待つと無料でもその作品は買う、やはり単行本で買う、SNSの宣伝から、アプリのおすすめやランキングから、広告から、などなど。
 作品への入り口や課金方法が多様化してるだけに、どれに時間と金を使うかという選択が人によって変わって来てるでしょう。


 電子雑誌も色々と変化していて、ブラウザ版とアプリ版で内容が違うのがあったり(アプリ版のみで再録連載があるなど)、独占配信だったのが複数ストアで売る様になったり、電子のみでグラビア増量なんてのもあったり(逆にグラビア無しになる場合もある)。
 中には、電子雑誌の付録としてアニメが始まる作品の単行本を丸一冊つける、なんて例も>(僕ヤバの1巻が丸一冊付録に。次の号では2巻が丸一冊)。




 大きく売れる作品は、やはりアニメ化などの影響が大きく、好循環でヒットが大きくなる、というのは変わらないのかな。
 ヒットしてるなら面白いだろう、ハズレではないだろうから抑えておこう、という後追いも増えて雪だるま式というのもある。


 読切が発表される量は爆発的に増えている。WEBのおかげで、刺さる作品は拡散されて多くの読者に届きやすくもなっている。
 そうなると、玉石混合である雑誌は不利になるのだが、それでも。




 漫画を読む、というのに時間と金を使ってくれる人が増えてるのは確かだし、一度そうなれば、この豊穣たる世界からはそうそう離れないだろうし。
 プロの漫画家さんの人数も、多分歴史上最大になってるのだと考えられるし。
 今が最高なのか、いや、まだまだ昇っていくのか。




 漫画の未来は、いったいどっちだ。





 といった所で今回はここまで。




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