これは面白かった。
- レストラン
- 評論家
- お客
の3部構成となっていて、それぞれの部で
- オーナーシェフを中心にしたレストラン内部の人
- ガイドブックの編集者・執筆者・評論家
- 常連・一見の「客」
を「高級レストラン」との関わりから分析しているのですが、これらは
- 生産者(サービス提供者)
- 仲介者(アーリーアダプター的消費者であり、別の消費者への紹介を行う人)
- 消費者(最も多くの人数を占め、多くの金をもたらす層)
という分類も可能であり、これはレストランに限らず、ありとあらゆるサービス・エンタテインメント産業と構造的に類似したものであるということが出来ます。
そういう見かたで読んでみると、「フランス高級レストラン」というフィルターを通しているけれど、現在の自分が行っている活動に関して新しい視点を得る事ができるかもしれません。
ただし、原著は1996年に刊行された為、インターネットなどが現在ほど発展しておらず、その辺を勘案する必要はあります。
第一部「レストラン―コック帽の裏側―」
起業を考えている人が読むべきなのは、この章です。
ミシュランで星を獲得するようなフランス料理店、その殆どがオーナーシェフによる店であり、ブランド化され大きくなっていく過程というのは起業に成功した場合の一種理想的な到達点とみなせるかと思います。
また、少人数経営からの拡大という点を見ればベンチャー企業の発展の相似形でもあり、料理部門とサービス部門の分業はWEB起業における開発と営業との関係を髣髴とさせるかもしれまえん。
調査した三十名の料理人の経歴を見渡すと、二十七名は開業以前にすでに結婚していたか、開業の翌年に結婚している。
これは成功の条件の一つである。
残りの三名は夫婦で営業しているわけでなく、内二人は母親あるいは姉妹とレストランを始め、一人は共同経営者であった。
などなど、示唆に富んだ指摘もあります。
第二部 評論家―味の鑑定者ー
評論・レビュー・意見を述べる人が読むべき章はここ。
現在では仲介者と消費者は渾然一体となって居るため、ある分野に関しては仲介者であり、またある分野では消費者であり、両方を兼ねる、という事も多いと思います。
食べログやアマゾンでの星付け、ブックマークでのコメントとかね。
しかし、ガジェットやサービス、エンタテインメントにおけるアーリーアダプターのあり方について言えばそう変化していないとも居えます。
ガイドブックに関してこういう事が書かれて居たりします。
他との違いを出さないと意見を聞いた責任者は、自分達の出版物を、新たな才能が抬頭するのをサポートするための道具、と口をそろえて規定する。
他が自分達を「発掘者」と規定し、そのうちの一人に至っては「地元の美食の記憶の殿堂の番人」と規定するのに対して、穏当な部類の人々は、レストランの早すぎる成功には疑問を呈している。
P124
私は「芸風」なんて書き方・言い方をしますが、他所と同じ事を後からやってもしょうがない、のですが先鋭化・奇形化してしまう恐れも持っていなければなと。
良い店を他のガイドブックに先んじて掲載する事、また、評価を上げるか下げるか、などに関してはミシュランとゴー・エ・ミヨーの年次比較を行って見せているのですが、これも興味深い。
「このマンガがすごい!」と「このマンガを読め!」と「ダ・ヴィンチの100冊」を比べてみるような話です。
また、評論家同士の「独立性」「個性」という点に関してもコメントが紹介されていて、そこでは
情報提供者という役割は、生産者と消費者との間の仲介者に過ぎないとしても、発掘者という役割が、評論家を価値あるものとしている。
他人が既に見つけだしている店を読者に知らせるだけでは、評論家は受け売り屋の域を出ない。
反対に、若い才能あるレストランオーナーの成功のきっかけになれば、評論化自身が名声のプロデューサーとなる。
P160
とも書かれており、この辺「店」「レストランオーナー」を「作家」「小説」等に置き換えてもいけるよなー、と。
また、支払い・覆面性・公正性、すなわち、タダメシ食わせてもらって提灯記事を書くとか、評論家にだけ特別なサービスがあるとか、シェフとの個人的友情とかそういった要素についても書かれており、考えさせられる事しきり。
第三部 お客―芸術的料理の消費者ー
お客、すなわち消費者に関して言えば「馴染み客・常連客」と「一見の客」というのについて多く。
またある種の「玄人」の行動、店側が「素人」をなめる行為についても書かれています。
「このマンガがすごい!」の上位ランキングだけ見て「こんなん駄目だよ、俺の好みと違うから」と言ってしまう心理、「あー、2年前に見たわー」という地獄のミサワ的な言動とでも言うんでしょうか。
高級レストランに毎日通うようなリピーターと、一年に一度積立金で会食をしにくる人、どちらもお客であるのは変わりないのですが、がしかし。
自分が「ゆがんだ玄人」になってしまってはいないだろうか、とちょっと考えてしまいます。
あと有名人が客である場合の話もあって
レストラン経営者の中には、有名人との親しさを公然と見せつける者も居るいる。
送られた絵画やリトグラフを店内に飾ったり、作家や俳優に料理本の序文を書いてもらったりして、シェフは有名人の世界との近接性を。さらにはそこに属していることさえ示すのだ。
これは日本でも良くあるんですが、うーん、まあいいか。
最後に
レシピとかシェフの逸話とかガイドブック、みたいなものと考えて読むと期待はずれというか肩透かしになると思います。
でも、面白いので機会があったら読んでみて下さいな。
といったところで今回はここまで。