情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明

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漫画、あるいは小説、もしくはエッセイなどの
印象、あるいは連想、もしくは感想を書いてるBlog。

押井守によるジブリ作品評が、ツンデレにしか読めない(1995年)




 キネマ旬報1995年臨時増刊 7月16日号「宮崎駿高畑勲スタジオジブリのアニメーションたち」というムックがあります。

 


 「耳をすませば」の公開直前くらいに発売されたもので、二人の対談、フィルモグラフィー、書籍リスト、講演採録、アンケート特集などと共に関係者へのインタビューも掲載されています。(押井守大塚康生近藤喜文鈴木敏夫)


 このうち、押井守のインタビューが、なんというか愛憎入り混じってるというか、ツンデレっぽいというか。


 


 各作品についてコメントは、こんな風でした。




風の谷のナウシカ [DVD]

―これは宮さん流の「宇宙戦艦ヤマト」なんですよ。
 色々粉飾をこらしてるけど、特攻隊の情念が充満している。
 そういう意味ではイデオロギーをそのまま映画にして、壮烈なエネルギーで支えたパワフルな作品ではある。


 漫画の「ナウシカ」もこの時点では完結済みですが、アニメに対しての評価でこういうコメントになるんですな。
 特攻隊の情念と言われると、ナウシカの行動はそのとおりですわ。



天空の城ラピュタ [DVD]

―僕はジブリ作品の中では一番好きです。良くも悪くも少年の冒険物語としていい構造を持ってるから。
 あの人の目指してる映画と、抱え込んでる情念とのバランスがよくとれてる作品です。
 「ナウシカ」は天秤がドーンと上がってますよ(笑)。
 ただ、空から人がバラバラ落ちて、ムスカという男が「人間がゴミのように見える、ワッハッハッ」っていうシーンにはゾッとしたけどね。
 どこかでそういう「人間なんかみんな死んでしまえ」って恐ろしく残酷な面があるから。


 ラピュタが一番好きって、ちょっと意外な発言な気もします。
 ムスカはある意味主人公だからなあ。



となりのトトロ [DVD]

―自分の理想である日本の美しい共同体を描く時に北欧のトロールを移植するしかなかったという根本的な欠陥がありながら、力ずくで押し切った作品。
 子どもが夢中になるのは分かりますよ、サービスの限りを尽くしたんだから。
 もの作ってる人間が乗ってたまるかと思いますね。


 トトロの「子供受け」度はそりゃあすごい。
 とりあえずトトロのDVD流しておけばその間はどうにかなる気がする。




魔女の宅急便 [DVD]

―時代の要請があった時、鈴木敏夫というプロデューサーの独特の勘があって言わば宮さんを論破して作った映画です。
 宮さんにしてはサービスが過剰で、破綻してると思います。
 あの後落ち込んだんじゃないでしょうか。二年くらいブランクがあるでしょう。


 「おちこんだりもしたけど、私はげんきです。」というキャッチコピーにも引っ掛けてるコメントですかね。
 プロデューサーによる「論破」ってのがいまいちピンとこない部分もありますが。



紅の豚 [DVD]

―要するに私小説ですよ。あれだけカッコつけてキザな台詞喋って、海賊をきどってるけど全部自己弁明じゃないですか。
 最後にスポッとブタの頭脱いだら宮さんの顔になって「すみませんでした」ってオチがあれば良かったんだけど。
 あれは「ブヒブヒ」しか言えないけど、やたら空中戦だけはうまいブタが主人公なら傑作だったと思いますよ。


 そんなメタなオチは許されないだろ、と考えるのは素人の浅はかさなんでしょうか。



 高畑勲作品である「火垂るの墓」については


火垂るの墓 完全保存版 [DVD]


 高畑さんに関しては言いたいこと山ほどあるけど(笑)「火垂るの墓」が一番気になるんですよ。
 あれは淫靡な世界ですよ、近親相姦の話ですからね。その背後に死のイメージがべったり貼りついてる。
 そういう意味ではエロティックな映画でゾクゾクしましたよ。


 ・・・お、おう。


作品以外の色々

 と、個別の作品については上記の様に話してますが、他にも色々と刺激的な発言がありますね。



 僕はスタジオジブリクレムリンだと思ってますよ(笑)。
 本家はとっくに崩壊したのに、東小金井の畑の中にどっかと残っています。


 (中略)


 言ってみれば宮さんが書記長で、高畑さんは党首というかロシア共和国の大統領かな。
 鈴木プロデューサーは間違いなくKBG長官ですよ。


 そのぐらい強権で豪腕じゃないとあんだけの作品を作れない、という意味なんでしょう。多分。



 高畑さんはともかく、宮さんは叩けば埃の出る人間なんだから。
 そういうことを含めての高畑さんであり、宮さんなんだから、神格化しちゃうととんでもないことになりますよ。
 それを背負い込むのは本人なんだから。


 あー、後継者問題とかなー。
 本人じゃあないか。



 こんなこと言うと間違いなく喧嘩になるだろうけど、あの人の歴史的使命は終わったんですよ。
 僕の見てきた体験の中で言えば、「未来少年コナン」や「ルパン三世 カリオストロの城」がピークで、逆にジブリに移ってからはむしろ後退戦だったと思っています。
 作品のクオリティーが上る一方で内実としては後退戦だったのがここ十年だと思いますね。
 でも幸せな人間だと思うんだけどね、やり尽くしたんだから。


 しかし、現在までのジブリ最大のヒット作となった「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」はこの記事よりも後だったりするんだよなあ。
 その後の発言なんかも探して読んでみると面白そう。


 といった所で、今回はここまで。