立原あゆみデビュー40周年記念イベントセルフ参加記事第三弾。
俺ァ、本気だったのに・・・・・・。
「寄席芸人伝」(古谷三敏)54話「茶帯の都楽」より(初出は小学館ビッグコミック1982年2月25日号*1 )
簡単なまとめ
- 江戸言葉、噺家言葉として「真面目」などより「まじ」「マジ」という語があった
- 口語としての「マジ」は存在し続けていたが、漢字は不定
- 1982年以前:「マジ」を「本気」にあてた例が出る
- 1984〜1985年頃:若者言葉・表音としての「マジ」が広まる。それに対し、漫画・活字上で「本気」が使われるように
- 1986年:「本気!」(立原あゆみ)の登場。大ヒット作のタイトルになったことで*2浸透。
- それ以降:歌のタイトル、映画、Vシネマなどを通じて「本気」のさらなる拡散と定着
という順で、「本気と書いてマジ」が誕生・浸透し、定着したのではないかと考えられます。
参考URL
まずは、辞典を引くと
つい先ごろ、三省堂から「当て字・当て読み 漢字表現辞典」が出版され、その著者の笹原宏之が、WEB上でその辺の話を連載中。
真面目、まじ、を経て「本気(マジ)」の話がこの回。
辞典でもWEBでも、1985年、高橋留美子「めぞん一刻」9巻が漫画での最古の用例として挙げられています。
このコマですね。
本気になってるわよ
「めぞん一刻」(高橋留美子)91話「パジャマとネグリジェ」(初出はビッグコミックスピリッツ1984年11月30日号*3 )
が、笹原宏之が
これは、若い女性の日常生活での勢いある口頭語を示しつつ、きっちりとした意味とニュアンスを伝えるべく漢字で補ったのであろう。
それを描いた高橋留美子氏は、オリジナルの表記とは意識されていないということなので、自然に記されたものか、あるいはより古い例があったのであろう。
と書いているように、これは最古の例ではありません。さらに前があります。
1982年、寄席芸人伝での用例
下記に示す様に「本気と書いてマジ」が使われているのを確認出来ました。
ゆ、夢だなんて・・・バカヤロー!!
俺ァ、本気だったのに・・・・・・。
「寄席芸人伝」(古谷三敏)54話「茶帯の都楽」(初出は小学館ビッグコミック1982年2月25日号*4 )
私が知る範囲での最古の例なのですが、他の雑誌・漫画以外の活字媒体など、実例は探せばまだまだ出てくる可能性は高いのではないかと思われます。
余談ですが、この例も、めぞん一刻の例も、そして後述する「本気!」も男女の愛情に絡んで使われた例といえるのかも。
これ以前の回では、「真面目」と書いて、読みは「マジ」、という例が出されています。
「寄席芸人伝」(古谷三敏)38話「大真面目(マジ)の源平」(初出は小学館ビッグコミック1981年)
源平に対しての評価発言として「マジ」「マジ」といいますが、漢字の読み仮名ではなく口語としてのカタカナ表記。
本人はいたってマジなんだから!!
「バカマジでよォ・・・」
「でも、あそこまで落語にマジになれるなんて・・・・・・」
同じく「大真面目(マジ)の源平」より
この回では漢字は使われず、「本気」とは結びついていませんでした。
1985年の少年漫画での例
そして、辞典で例として挙げられている「めぞん一刻」とほぼ同時期に、少年漫画でも使われています。
本気だな!
「Let'sダチ公」(積木爆原作、木村知夫作画)10話「タイマンはったらダチ!」より(初出は週刊少年チャンピオン1985年28号*5 )
この回のサブタイトル*6でもある「タイマンはったらダチ!」というフレーズがあまりに有名なこの作品、原作の「積木爆」は立原あゆみの別ペンネーム。
なので、別のより早い用例が見つからない限り、少年チャンピオン、ひいては少年誌に「本気と書いてマジ」を持ち込んだのは立原あゆみである、と言って良いと思います。
そして、漫画「本気!」
現在ほぼ一般的にこの読みが通じるようになったのは、1986年に連載開始された、立原あゆみ「本気!」による影響が最も大きいと言えるでしょう。
連載開始は、週刊少年チャンピオン1986年38号*7。
千葉県船橋市をモデルにした架空の街、渚市を中心に一人の少年、任侠、ヤクザが一人の女に惚れ抜き、純愛、抗争、仁義と志で成長していく話。
番外編「風」を挟んで1996年34号での第一部完結まで、全446話、単行本にして50巻。
連載中に単行本の総部数が1200万部を突破*8する大ヒット作となりました。
その後、版を重ねると共に、1997年の番外編「命」、1998年から不定期に掲載された「本気!2」、番外編「SOS」、ヤングチャンピオンで2002年〜2005年まで連載された「本気!サンダーナ」等、現在までにシリーズ累計3700万部を超えてるとのこと。*9
現在、文庫版が刊行中なので、累計部数は更に増加していくでしょう
ヤングチャンピオン次号(11/22発売)では、「JINGI」とのクロスオーバー作品となる「火薬」が掲載予定でもあり、未だ完結していない作品でもあります。
作品タイトルであり、主人公の名前であり、作品のテーマでもあるこの言葉「本気!」の命名について、立原あゆみ自身が書いたコメントがいくつかあるのですが、その中でも意味と当時の口語表現から、という点について、以下のように記されています。
この物語が始まる頃、若者の間にあった、“マジ”という言葉は、多くは疑問符をつけて語られてたように思うのです。
“マジ?”“マジかよ?”、相手に対して気持ちを確かめる言葉のように・・・。
照れのためか、本音を隠すことが美学のように感じられる今、自分自身に対してマジと問いかけられる主人公を描きたかったのです。マジという言葉を、本気という漢字に置き換えました。
生ぬるい幸福の中にいてさえ、不満をもらす世の中、あえて暴力、非合法の舞台を選びました。心に巣食う本気が、どのように存在するか、見極めたかったでしょうか・・・。
ひとつだけわかってほしい事は、この物語は暴力を肯定するものではないということ、命の幸を願うことが作者の本気だという事。
週刊少年チャンピオン1990年10号「本気!」アニメ映画公開に寄せてのコメントより。
作品タイトルとして「!」が付けられているのは疑問形への否定、という意味も込められていたということでしょう。
「マジ?」という問いかけに「本気!」と答えてみせるのだ、という意思をもまた。
「本気!」のメディア展開と「本気と書いてマジ」の浸透
「本気!」は上に記したようにアニメにもなっていますが、メディアミックスとしては実写がメイン。
映画1作目は1991年4月公開で、少年隊の東山紀之が主演。*10
劇場公開時には、バイオリン観音の刺青を背負ったヒガシがチャンピオンの表紙を飾っております。
その後、主役を石橋保に交替し、2004年までに実写映画、Vシネマをあわせて30作が作られるヒット作になりました(いずれも未DVD化)
また、1995年には劇場版がTV放映された、という記述もありますので、かなり広い範囲への浸透に寄与したと考えられます。
・・・この辺からは「漢字の現在」と同じような話になるので割愛。
そして、現在
「マジって漢字でどう書く?」と聞いたなら「本気」と書く人が多いのは間違いないでしょう。
しかし、ただ単に「マジ」と言った・書いた場合には、口語表現での軽さ・疑問の意味が何処かしら残っている、と感じている人も多いのだと思います。
それ故、口語でも文語でも敢えて「本気と書いてマジ」と、漢字表記を併記することで表意するのかもしれません。
真摯で純粋な気持ち「本気!」と。
といったところで今回はここまで。