情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明

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漫画、あるいは小説、もしくはエッセイなどの
印象、あるいは連想、もしくは感想を書いてるBlog。

「われわれは胃袋の哀れな奴隷にすぎない」 ジェローム・K・ジェローム「ボートの三人男」より。


 胃袋がそう望まない限り、われわれは働くこともできなければ考えることもできない。胃袋はわれわれに対し、こういう感情を持て、こういう情熱を持てと命令するのである。


エッグズ・アンド・ベイコンを食べたあとで胃袋は言う――
「働け!」


朝食と黒ビールが終わると胃袋は言う――
「眠れ!」


紅茶(一人前茶さじ二杯分いれて三分以上おいたもの)を一杯飲むと胃袋は頭脳に告げる――
「さあ、起きろ。お前の力を示せ。雄弁にして荘重、荘重にして温良なれ。自然と人生を明晰な眼で見つめよ。思考の白い翼を広げて天高く翔け、荘厳な魂のごとくに、下方にうずまく世界を見下しつつ、星たちの長くつづく道を通りぬけて永遠の門へと至れ」


暖かい軽焼パンマフィンを食べ終ると胃袋は語る――
「野の獣のごとく怠惰であれ。魂を失え。いかなる空想、いかなる希望、いかなる恐怖、いかなる愛、いかなる生命の光も持たぬドンヨリした眼の獣となれ」


そしてブランデーをたっぷり飲んだあとで胃袋は命ずる――
「さあ来れ、阿呆よ。歯をむきだしてゲラゲラと笑いながらドタリと倒れろ。ちょうどお前の仲間が笑うときのように。他愛もないことを喋り、意味の無い言葉をペラペラ口にしろ。ほんのちょっぴりのアルコールに小猫のごとくに溺れ、正気を失うところの哀れな人間はいかに仕様のない間抜けであるかを、世界に示せ」


 われわれは胃袋の哀れな奴隷にすぎない。


 『ボートの三人男 犬は勘定に入れません』(ジェローム・K・ジェローム丸谷才一訳) 中公文庫版P139〜P140 より。



 これは原文もさることながら、丸谷才一の訳が見事なんですよ。
 原文の引用部分はこうなってます。


We cannot work, we cannot think, unless our stomach wills so. It dictates to us our emotions, our passions. After eggs and bacon, it says, “Work!” After beefsteak and porter, it says, “Sleep!” After a cup of tea (two spoonsful for each cup, and don’t let it stand more than three minutes), it says to the brain, “Now, rise, and show your strength. Be eloquent, and deep, and tender; see, with a clear eye, into Nature and into life; spread your white wings of quivering thought, and soar, a god-like spirit, over the whirling world beneath you, up through long lanes of flaming stars to the gates of eternity!”


After hot muffins, it says, “Be dull and soulless, like a beast of the field?a brainless animal, with listless eye, unlit by any ray of fancy, or of hope, or fear, or love, or life.” And after brandy, taken in sufficient quantity, it says, “Now, come, fool, grin and tumble, that your fellow-men may laugh?drivel in folly, and splutter in senseless sounds, and show what a helpless ninny is poor man whose wit and will are drowned, like kittens, side by side, in half an inch of alcohol.”


We are but the veriest, sorriest slaves of our stomach.

http://www.gutenberg.org/files/308/308-h/308-h.htm


 紅茶のくだりがいかにもイギリス的じゃあありませんか。


spread your white wings of quivering thought, and soar, a god-like spirit, over the whirling world beneath you, up through long lanes of flaming stars to the gates of eternity!

思考の白い翼を広げて天高く翔け、荘厳な魂のごとくに、下方にうずまく世界を見下しつつ、星たちの長くつづく道を通りぬけて永遠の門へと至れ


 自分の手元にあるのはボートの三人男 (中公文庫)これ。初版が1976年で、2005年に出た22刷。
 久しぶりに読むと引っかかるポイントが昔と違ってるような不思議な感じ。


 現在は新装版になってるみたい。和田誠による装画ですね。
 ボートの三人男 (中公文庫)


 中身はどうなんだろう。字組みとかは変わってるかもしれませんが、この作品の本質であるペーソスは時代を超えていくものだと思います。
 



読んだ本

  1. 週刊少年マガジン
  2. 週刊少年サンデー
  3. 隔週ビジネスジャンプ
  4. 隔週ビッグコミックオリジナル
  5. 月刊 マガジンSPECIAL
  • マガジン
  • サンデー
  • BJ
    • 限定羊羹かあ。こういうのを買うために並ぶのも、コミケで並ぶのも、根っこは何か同じものの様な気がする。多分>世界に大自慢したい日本の会社@坂本光司×こせきこうじ
    • 源氏物語が肉筆回覧同人誌の元祖、ってのは結構言うような。あと、当時の識字率考えるとかなりの率が読んでたって事になりそうだよね>甘い生活@弓月光
    • 過去編終わって、どうすんだこれ、まとめに入ってるのか?>傷だらけの仁清@猿渡哲也
    • ポンコツ鉄・・・。廃墟マニアみたいなもんでしょうか。>となりのツァラトゥストラさん@大和田秀樹
    • こういう黒塗りベタ引きって今逆に珍しい気がする>怨み屋本舗REBOOT@栗原正尚
    • 未解決事件というか、エクストリーム自殺コピペとかありますが、単純に「行方不明」の方が数は多そうな気がします。>俺の空-刑事編-@本宮ひろ志
  • オリジナル
  • マガスペ
    • カラーとの二本立て、ってもこれ単行本化時にどうすんだろう。続き夢オチの台詞だけ変えるのかしら。>ぱすてる@小林俊彦
    • 特別読切コラボ。このまったく噛み合う気も合わせる気も無いっぷりが逆にすげえわ。また新装版出るんですか。へー。>特攻のコラボ-夏の爆音スペシャル-@佐木飛朗斗×所十三×東直輝
    • 読切シリーズ。野菊の様な、って現在では褒め言葉かどうか微妙やね。しかし、なんで悲恋というかアンハッピーエンドばっかり原作に選ばれてるのか気になるな。次回は「舞姫」だし>野菊の墓@伊藤左千夫×上田維。
    • 相手の良い話でアウェー化、にしてもこれはひどい。でも、カズマサの演説は観客に聞こえないんじゃないの。あれ、そういや、野球では「ホーム」と「ビジター」で「アウェー」とは言わないような?そうでもないのか?
    • 新人読切。一番怖いのは人間なんだよね、的な。>だれも知らない@新谷信貴。
    • 最終回。大きく育って終わるんじゃなくて逆って結構珍しい気がするがどうか。>女王蜂-Vampire Queen Bee-@高田千種*1
    • 最終回。ハーレムエンドに落ち着いたか。最初の暴走具合がおさまってたし、こんなとこですかね>赤毛のサスケ@佐藤陽介。