しつけ糸
えー、女房に早く死なれた男やもめ、亭主と早く別れた後家さんてえなァ、やはり寂しいもので、そういう人を相手にうまい商売をしていた人がいたもので、
婆「ねえ、おすぎさん、いいところのご隠居さんだがね、三十ばかりの生娘というご注文なんだヨ。給金はいくらでも出すというから、おまえさん行っとくれヨ」
おすぎ「まあ、お婆さん、いくら何でも、あたしみたいな使い古しが、生娘にゃァ化けられないわヨ」
婆「そこがそれ、頭の使いどころだヨ。アソコの上と下ををネ、木綿糸でチョイと縫えば、わかりゃァしないヨ」
おすぎ「そうかしら?それもそうネ、ためしにやってみようかねえ・・・・・・」
てんで、少うし痛いのを我慢して、支度をすまして、隠居の所に送り込みます。あくる朝ンなって、
婆「ねえ、ご隠居さん、ほんに生娘だったでしょう」
隠居「いかにも生娘だったよ。まだしつけ糸まで取らずにあった」
定本・艶笑落語 月の巻(小島貞二・編) ISBN:4651300081*1「艶笑江戸小咄揃」 より「しつけ糸」
参考:「刺繍」とは何でしょか:http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_de87.html
*1:現行商品は多分ISBN:4480036326