情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明

情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明


漫画、あるいは小説、もしくはエッセイなどの
印象、あるいは連想、もしくは感想を書いてるBlog。

「炎上」というか「ネット右翼」とか「コメントスクラム」とか「ネットイナゴ」に関して、35年も前の小説で似たようなことが言及されているという話


 以下は意味が通じるように単語や数字を置き換えたりしてみた例。


「彼らは、またその報道が届くにつれそれを編集しながら、ほとんど生で報道しました。その結果、インターネットのいたるところで、端末を持っている者ならだれでも、1ダースほどの熟練したアルファブロガー/ニュースサイターが言及するBlogを見ることができるようになりました」
「それから、すべてが突発したのです。そのブログのアクセスは急激に増大し、ネット右翼はすべてコメント欄を荒らしはじめました。なぜでしょう?」


「そう、どうやら騒動を好む人びとがいるらしいのです」


「それは馬鹿げたことのようです。炎上に巻き込まれることを誰が望むでしょうか」
「第一に、炎上と報道されているものをくい止めるべきもっと多数の穏健派。第2に、もっと多数のアルファブロガー/ニュースサイター。第三に、世間に知られたいという人びと----」


「なんらかの主義主張を持つ人びと。公衆の耳目を引こうとする人びと。ここにはアルファブロガー/ニュースサイターがいます!PVがあります!世間の目があります!」
「さらに、自分で炎上を見たことのない人間がいます。そういう人びとがどっとやってきました。彼らが今炎上についてどう思っているかはまた別問題です


「これらの人間を全部合わせても、公衆の中で大きな割合にならないかもしれません。炎上を見物にくるほど阿呆な人間はどのくらいいるでしょうか?しかし、その割合はわずかでも、彼らはインターネット全体からいっせいにやってきたのです。彼らが到着するにつれて群集はますます増大して騒がしくなりました----ネット右翼たちにとっては、いっそう好都合になったのです」
「そして、ネット右翼たちも、四方八方からやってきました。現在では、3度のクリックでどこからでも、どこへでも行けるからです」


「これは接近手段の問題です
「かりに---そう、100万人のうちでわずか15人が、機会さえあればコメント欄を荒らすような人間だとしても、日本のインターネット人口では1000人くらいになります。そして、その1000人全部が、3つのURLをクリックするに要する時間で、炎上してるBlogへ到着できるのです」


「炎上がこれでおしまいということはないでしょうね」
「炎上はふえています。観光旅行のようなものです。あなたがたのまとめサイトのせいで、観光旅行は大幅に減りました。パームリンクのせいで、それがすこしづつ復活しかけています。慢性の流動的炎上というものを信じられますか?BlogからBlogへと渡り歩く暴徒です。マウスとキーボードを持って、コメント欄を荒らせるところで荒らしを働く----」




「タレントの○○を知ってるだろう?彼は「笑っていいとも」にでていて、たまたまある動画紹介Blogの話をした。彼はそれをきれいだといった。つぎに何が起きたかといえば、国中の男や女・子供がそのサイトを見たいと思ったことなんだ」


「どの程度のひどさなんです!」


「わたしが最後に聞いたところでは、怪我人は一人もでていない。群集は物をこわしてもいない。どのみち、燃料になるようなものはないからね。陽気な炎上だよ。べらぼうに人がでているだけさ」


「またネット右翼ですね。どうもそうらしい」


「パームリンクとコメント欄があるところでは、どこでもネット右翼が現れる可能性があります」


あとになって、彼は砂浜の色を思い出せなかった。砂が、あまり見えなかったのだ。



 はい、これは1971年*1の作品、ラリイ・ニーヴンの短編「フラッシュ・クラウド*2からの改変ネタです。
 一応インターネット用語になっているフラッシュ・クラウド(Flash Crowd)*3の語源です。


 ちなみに、突発的群集フラッシュ・クラウドとは、何らかの要因であるサイトやURLにアクセスが急増する現象の事。
 前は「祭り」に近いかな、と思ってたけど、読み返してみると「炎上」の方が近いかもね、ということで。
 以前は「炎上」という概念を私が知らなかっただけで、人が多く集まれば阿呆も荒らしも居る、というのは昔から変わらないということなんでしょうけれども。


 で、これはテレポート装置が実用化された場合、というSF小説なんですね。
 この小説における「転送ブース」は昔の公衆電話のような形で、アメリカ国内なら3回のダイアルで何処へでも移動できるようになっています。


 今なら、

 と、3クリックくらいで炎上してるBlogにたどり着けるんじゃないのかな、とかね。



 この小説中では、ちょっとした事件がきっかけで人々が「モール街」という商店街に一気に集まり、暴動が起きます。
 しかし、また別のきっかけでは別の場所に同じように人々が集中するけど、ただ集まっただけで解散していきます。


 アクセスが集中するのは同じでも、炎上したりしなかったり。まあそういうこともありますよね。


 違うのは、実体を持って自らが生身でその場所に行くかネットワークを通じて行く(?)かということなのですが。
 ああ、もちろん、どちらの場合も荒らしたり略奪を行うのは群集の中の一人であり匿名な誰かなのかもしれませんね。
 でも、それは匿名であるから略奪を行うんじゃない、ということです。





 改変前はこんな風です。用語解説。

  • 報道録画員ニューステーパー」というのは報道会社などと契約して街を飛びまわりニュースを探し廻って報道する人。
  • 何らかのきっかけで何処かに多数の人々が集まるのが「突発的群集フラッシュ・クラウド
  • テレポーテーション装置は「転送ブース」と呼ばれています。

 


ジョージ・リンカーン・ベイリーは、この騒動を報道させるために一団の報道員を派遣しました。彼はまたその報道が届くにつれそれを編集しながら、ほとんど生で報道しました。その結果、合衆国のいたるところで、テレビを持っている者ならだれでも、1ダースほどの熟練したニューステーパーが録画する騒動を見ることができるようになりました」


「それから、すべてが突発したのです。モール街の人口は急激に増大し、群集はすべて物をこわしはじめました。なぜでしょう?」


「そう、どうやら騒動を好む人びとがいるらしいのです」
「それは馬鹿げたことのようです。暴動に巻き込まれることを誰が望むでしょうか」
「第一に、暴動と報道されているものをくい止めるべきもっと多数の警官。第2に、もっと多数のニューステーパー。第三に、世間に知られたいという人びと----」


「なんらかの主義主張を持つ人びと。公衆の耳目を引こうとする人びと。ここには報道員がいます!カメラがあります!世間の目があります!」


「さらに、自分で暴動を見たことのない人間がいます。そういう人びとがどっとやってきました。彼らが今暴動についてどう思っているかはまた別問題です
「これらの人間を全部合わせても、公衆の中で大きな割合にならないかもしれません。暴動を見物にくるほど阿呆な人間はどのくらいいるでしょうか?しかし、その割合はわずかでも、彼らは合衆国全体からもほかの土地からもいっせいにやってきたのです。彼らが到着するにつれて群集はますます増大して騒がしくなりました----略奪者たちにとっては、いっそう好都合になったのです」


「そして、略奪者たちも、四方八方からやってきました。現在では、3度の転送でどこからでも、どこへでも行けるからです」


「これは接近手段の問題です」


「かりに---そう、100万人のうちでわずか10人が、機会さえあれば商店を略奪するような人間だとしても、合衆国全体では4000人くらいになります。そして、その4000人全部が、21の数字をダイヤルするのに要する時間で、サンタ・モニカ・モール街へ到着できるのです」


「暴動がこれでおしまいということはないでしょうね」


「暴動はふえています。観光旅行のようなものです。あなたがたの短距離用ブースのせいで、観光旅行は大幅に減りました。長距離ブースのせいで、それがすこしづつ復活しかけています。慢性の流動的暴動というものを信じられますか?群衆から群集へと渡り歩く暴徒です。硬貨を入れた財布を持って、略奪できるところで略奪を働く----」


あとになって、彼は砂浜の色を思い出せなかった。砂が、あまり見えなかったのだ。


どの人間にも、変化と静止のあいだには最適の比例がある。変化がすくなすぎると、退屈する。静止がすくなすぎると、恐慌を起こして適応能力を失う。
10年のあいだに6回も結婚した者は、職を変えないだろう。会社の勤めのためにしょっちゅう引っ越すものは、安定した結婚を続けるだろう。一つの家庭と家族に縛り付けられていた女は、しきりに身を飾ったり、愛人をつくったり、せっせと仮装舞踏会に出かけるだろう。


「テープ雑誌スターのゴードン・ルントを知ってるだろう?彼は<ツナイト・ショー>にでていて、たまたまハーモウサ・ビーチの赤潮の話をした。彼はそれをきれいだといった。つぎに何が起きたかといえば、国中の男や女・子供がハーモウサ・ビーチの赤潮を見たいと思ったことなんだ」


「どの程度のひどさなんです!」


「わたしが最後に聞いたところでは、怪我人は一人もでていない。群集は物をこわしてもいない。どのみち、砂以外に盗むものはないからね。陽気な暴動だよ、ジャンセン。べらぼうに人がでているだけさ」


「また突発的群集フラッシュ・クラウドですね。どうもそうらしい」ジェリベリーが言った。


「転送ブースがあるところでは、どこでも突発的群集フラッシュ・クラウドが現れる可能性があります」


 表紙はこんなん。ガラスの短剣 表紙


#ちなみに、この小説での炎上(暴動)の解決手段は今で言えば「アクセス規制」です。そこにアクセス可能な(来ない人も含まれる)全員のIDを採っておいて後になって個人を特定するよりも現実的な手段ですわな、やっぱり。