近来の小説を類別せし統計表によれば、全部を十としてその半ば五は皆これ女学生に関しての恋、
その一分半は華族に関して男女の間に必ず何等かの秘密を蔵せざるもの、しかも多くは不思議に伯爵以下なりという、
残る三分半のうち一分半は家庭の看板を掲げ、一分は罪という文字に因縁し、余すところの一分は悲観的自殺主義を含みしものなりと、
時の流行か、世の趨勢か、人情の反射か、いづれにせよ事実は以上の如し、されど強ち以上の事実を避けしにはあらず
困ったもんですよね。
ジャンルを食い尽くそうっていうのか、流行に乗る、柳の下の泥鰌狙いの多い事多い事。
能力バトルが流行れば能力バトルばっか、ツンデレが流行ればツンデレばっか。百合が流行れば百合ばっか。
ちなみにこの文章、大正三年九月八日初版の至誠堂書店「浪六全集 第四編 八軒長屋 前編」の「はしがき」より。
今から96年ほど前のものです。なかなか変わらないものですね。
浪六ってのは、明治〜大正〜昭和と活躍した小説家村上浪六。
今はもう古書でしかお目にかかれない作家さんですね。