情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明

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イワン・エフレーモフ「丑の刻」


 丑の刻 (1980年) (海外SFノヴェルズ)
 丑の刻 (1980年) (海外SFノヴェルズ)

 そういえば丑年だったな、ということで(タイトルだけですが)干支にちなんだ作品を読みました。
 ある意味面白かったです。ある意味。


 共産主義が地球を完全なる理想郷に変えた時代。人類は超光速移動をついに発明していた。
 そんな頃、はるか昔に地球から移民し、分かたれたと思われる惑星を発見。
 閉ざされて他星との交流を拒否するその星を、地球からの探検隊が訪れる。
 ところがその星は、「国家資本主義」が支配しており、限られた小数の独裁エリート階級と奴隷階級に2分されていたのだ。
 探検隊のメンバー共産主義による理想社会を実現するため立ち上がる!


 というような話(本当)で、まあなんともソ連時代*1の作品らしいおかしなロシア礼賛と資本主義批判が入りまくってます。
 「地球の素晴らしい文化の発祥の地は?」「ロシアです!」みたいな。
 ・・・ところが、今読んでみると社会主義共産主義への皮肉として読める部分もかなり入ってる。


 惑星や都市の名前を独裁者の妻やらの名前に変えちゃってたり(レニングラードスターリングラードとかな)。
 あとは自己批判なのか悪い洒落としてか、本筋と殆ど絡まない無駄エピソードとして「独裁階級の言うとおりに本を書く御用作家」が袋叩きに合う場面が出てきたり。


 訳者あとがきでは、中国の文化大革命への批判もあってこういう話なのだということだが、どちらにしても今となっては、というような点も。40年前の作品だからしゃあないんだけどね。


 ただ、資本主義での富と権力の集中と二極化も、北朝鮮のような共産主義国家の独裁も、ここで批判される「国家資本主義」の行き着いた先と良く似てるのがなんともかんとも。
 理想社会が成らぬなら、革命とテロリズムに走るしかないのかも。


 あと、食べ物が(理想社会な地球側も、独裁社会の下層も)不味そうなのは実情の反映なのかもしれません。
 文化大革命期の中国の食事情が中国料理の迷宮 (講談社現代新書)中国料理の迷宮 (講談社現代新書)なんかで書かれてたんだけど、「贅沢は敵だ」「(自分以外の)誰かだけがいい思いをするのは許せない」的な発想時に最初に攻撃されるのが食なのかもしれません。


 復刊や文庫化されても売れないだろうし、大体面白いと思う人が少なそうだ。



#ところで、この作品に登場する探検隊の補助ロボット(?)は映像化するとタチコマっぽくなるかも。9本足、人が立って上に乗れる、高速移動の乗り物として、情報通信端末として、戦闘にも、とか。

*1:原著は1968年、邦訳は1980年