情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明

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漫画、あるいは小説、もしくはエッセイなどの
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『愛と誠』のファイト(by梶原一騎、女学生の友1974年10月号より)



 



 ぼくはいわゆる「スポ根作家」なる称号をマスコミから与えられたごとく、主としてスポーツの分野を舞台にとって、まさに「ファイト」そのものをテーマとして描いてきた。『巨人の星』であり『あしたのジョー』である。
 ではスポーツ物ではない最近作の『愛と誠』にはファイトは描かれていないか?
 そう問われれば、どっこいちゃんと描いてあるのであって、要はファイトなるものの考えよう、解釈の方法なのだ。


「愛は平和ではない。
 愛は戦いである――――」


 と、作品の冒頭にあるように、何も野球で投げたり打ったり、ボクシングで血みどろになってなぐりあうだけが戦いではない。闘志にあらず。そもそも『愛と誠』は、この発想から生まれた。
 静かで、ちっとも攻撃的ではなく、じっと耐えしのぶファイトもありうる。愛するという名の戦い、忍耐という名の戦い、あるいは人間本能の自己主張とは逆の自己犠牲という名の戦いは、その過酷さ、そのきびしさにおいて、いかなる強大な外敵との戦いにもおとりはしない。
 いま『愛と誠』の早乙女愛は、この戦いを静かなる火花を散らして戦っている。けっして『巨人の星』の星飛雄馬にも、『あしたのジョー』の矢吹丈にも負けていない不屈のファイトをもって・・・・。
 むしろ、ぼくは近ごろひしひし思うのだが、真のファイトとは静かなものではないか?


 表面にギラギラギンに表されているうちはニセモノらしい。そういう飛雄馬ジョーも、物語が佳境にさしかかるにしたがい、ぎゃくに彼らの動きは、すみかえったように静まってきた。極度に回転するコマが、すみかえるように。
 これ見よがしに煙をあげている火は、まだ猛火ではない。完全燃焼する炎は高熱だが静かだ。そのように、ぼくは早乙女愛に大賀誠を愛させてみたい、と『愛と誠』を構想した。
 だから、役名そのままを芸名にした映画の早乙女愛クン、またテレビで演ずる池上季美子クンらに、
 「愛の役づくりの秘訣を教えてください」
 と、質問されるつど、以上のべたとおりのことを、ぼくは答えてあげた。


 「自分を完全燃焼している静かな炎だと思いたまえ。その炎が早乙女愛だよ」


 そして、それはまた、ぼく自身が長年の作品活動をつうじてさぐってきた、さまざまのファイトのかたちの移り変わりであり、ようやくとらえた真理でもあるようだ。


 梶原一騎の仕事は男性・少年向けが多く、女性・少女向けというのはほんの少ししか存在しません。
 その中でも、女子中高生向け雑誌「女学生の友(Jotomo)」に掲載されたこのエッセイはかなり珍しい部類に入るかもしれません。


 



 女学生の友は1950年に創刊され、1977年に休刊。「プチセブン」に変った雑誌。
 その中で1973年から連載されていたのがこの「青春論ノート」というコーナーで、毎回1つのテーマがあり、それについて4〜5人の各界著名人がエッセイを寄せるというものでした*1。この号のテーマは「努力」ということで、丁度連載中かつこの年の7月に映画愛と誠 DVD-BOXが公開され、さらにはTVドラマ純愛山河 愛と誠 DVD-BOXが放映中であった「愛と誠」とからめて語っています。


 途中からなんだか違う話になっちゃってるのはご愛嬌。でも、

 真のファイトとは静かなものではないか?

 これ見よがしに煙をあげている火は、まだ猛火ではない。完全燃焼する炎は高熱だが静かだ。

 という指摘にはドキっとさせられます。
 簡単なことで軽々しく騒いではいないだろうか、(本当に戦うべきでもない時に)ムダに熱くなったフリをして行動しては居ないだろうか、と。


 「愛と誠」、読んだことが無い方は是非一読することをお薦めいたします。
 漫画喫茶でも品揃えがそれなりの所ならあるんじゃないのかな。



愛と誠 (1) (講談社漫画文庫)愛と誠 (1) (講談社漫画文庫)
梶原 一騎

愛と誠 (2) (講談社漫画文庫) 愛と誠 (3) (講談社漫画文庫) 愛と誠 (4) (講談社漫画文庫) 愛と誠 (5) (講談社漫画文庫) 愛と誠 (7) (講談社漫画文庫)

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*1:他の号で漫画家なら、藤子不二雄赤塚不二夫、他にも色々と

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 はてなPVモジュールが300万PV、はてなカウンターが100万を超えたのを機に、知り合いにお願いしてトップ画像を作っていただきました。
 寄席文字は四代目大穴亭馬勝くん、デザインは三代目雪之丞くんが担当してくれました。
 二人ともありがとう。



読んだ本

  1. 週刊少年チャンピオン
  2. 週刊モーニング
  3. 週刊ヤングジャンプ
  4. 月刊 ジャンプスクエア
  • チャンピオン
    • 特別復活宣伝漫画2P。広告扱いらしく目次には載ってません。とはいえ、これ読んでマックで食おうと思うかは微妙。店舗限定で新作四コマをトレーの紙に載せるとかどうか>サナギさん@施川ユウキ
    • 新連載。生徒会漫画で4コマ。どっかに生徒会漫画リストって無いのかね>ツギハギ生徒会@伊藤正臣
    • 典型的なギャンブルで借金抱えるパターンにしか思えない。ただ、手品師はの前につまみ出されると思う。>ギャンブルフィッシュ@青山広美×山根和俊
    • どう考えても逆ギレだろこれ。>聖闘士星矢 冥王神話-THE LOST CANVAS-@車田正美×手代木史織
    • バキとWORSTがイメージ映像として入ってくるのはどうなんだろうなあ。面白いけど>風が如く@米原秀幸
  • モーニング
    • 自分を悪だと認識してない真の邪悪、とは違う感じ。この仮面がどうやって剥がされるのか。>ディアスポリス-異邦警察-@リチャード・ウー×すぎむらしんいち
    • これはほぼ沙悟浄確定っぽいですな。問いはなんだか良くわからん>西遊妖猿伝 西域編@諸星大二郎
    • 読切。ちばてつや大賞受賞作。いい感じに昭和ですな。花言葉って本によって微妙に違うことがあるんだけど、翻訳の差なのかしら>RAIL GIRL-三河の花-@池田邦彦。
  • ヤンジャン
  • ジャンプSQ
    • ロンドン・ホームズ・切り裂きジャックとこの時代のベタネタですな。マイクロフトをマイク=ロフトって書く出版社あったっけ?と思いきや一応偽名なのね。>エンバーミング@和月伸宏
    • 読切。幽霊・霊視・探偵と色々取り揃えてますな。幽霊と話せる探偵、探偵*1自身が幽霊、幽霊の頼みを聞く探偵、そういう漫画だけでアンソロジー組めるくらいの数はあるかもなあ>枯尾花幽霊探偵事務所@中村尚儁。
    • 単純に言えば「通勤風景点描」なのになんだろうこの躍動感>PARマンの情熱的な日々@藤子不二雄A
    • イースレイ・プリシラ以外にも何か居るのかね、これ。>CLAYMORE-クレイモア-@八木教広
    • 一歩間違うと、ってこういう人は「実際居そう」所じゃなくて結構(WEB上でも)目にするのが嫌な所。芸能人だってトイレに行くんだよ。デーモン閣下以外。>幻覚ピカソ@古屋兎丸
    • 自分が通ってた高校は運動弱かったからこういう応援の記憶は無いな。あー、いや、違うな。それ以前に吹奏楽部が無くて管弦楽部だけだったんだ。そうそう、そうだった。>放課後ウインドオーケストラ@宇佐悠一郎



*1:または刑事